ロックンロールで踊らせて

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ドラマ『TRICK』のレビューのようなもの

TRICK』(2000年夏クール)

製作:テレビ朝日東宝

脚本:蒔田光治林誠人

演出:堤幸彦大根仁

出演:仲間由紀恵阿部寛生瀬勝久野際陽子

 

 日本のドラマなんてのは子供の頃はよく見ていたが、今では特撮以外さっぱり見なくなってしまった。矢張り1時間(CMなしで約43分)×10という長さがネックで、リアルタイムで追うにしろ、後から一気見するにしろ、なかなかにしんどいのだ。それはそれとして、もう一つの問題として、どうしても作りが安っぽく見えてしまう、という問題がある。勿論、全てが全てそうではないけれど、刑事ドラマでも学園ものでもどことなーく安っぽく感じる……しかし、そんな「安っぽさ」を逆手にとって昇華させた作品がある。御存知『TRICK』だ。あらすじは以下の通り。

 

遠隔透視、読心術…。 一見不思議にみえる“霊能力”のウラに隠されたトリックが、いま暴かれる! 仲間由紀恵阿部寛のコンビで送る新感覚ミステリー。 斬新な映像で定評ある堤幸彦の演出にも注目!! 売れない奇術師・山田奈緒子は、ある日、若手物理学者・上田次郎が雑誌に掲載した、霊能力者たちへの挑戦状に出会う。 「私の目の前で、超能力者であると証明できたら賞金を支払います」手品を見せて賞金を…。金欠の奈緒子は、上田の元を訪れた。個性もなければ話術もない、だが才能はある奈緒子の奇術を、上田は本物の超能力者だと確信。上田は賞金を手に、ある超能力者のトリックを暴くことを依頼した…。 この瞬間から、“霊能力”のウラに隠されたトリックを暴く、不思議なコンビが結成された。遠隔透視、読心術、空中浮遊…、本当の超能力者かも?と不安に駆られながらも、2人は真実に向かって走り続ける!

                              ーAmazon

 

 『TRICK』は、もともと子供の時に親と一緒に見ていて、そのころから大好きな作品であった。とは言っても、テレビドラマ版は再放送なんてほとんどやらなかったから、多くの回は見たのは一度きり、他の回はたまにレンタルしてきて数回、というくらいである。(なぜかレンタルして見た記憶がある回はSeason2が多い)その代わり?と言っては何だが、劇場版やテレビスペシャルは(洋画じゃないのに)日曜洋画劇場でよく放送していたので何度も見た。特に劇場版2。そのおかげで私のTRICK熱は特別に下がることもなく、中学の頃などは小説版なんてのを読んでいた。意外とこの小説版の記憶が強く、殆どの回のストーリー構成を覚えてしまっている。そして今回記念すべきSeason1を見返したのだ。

 『TRICK』の売りは何か?それは間違いなくあの「安っぽさ」である。堤幸彦を始めとする演出陣によって全体に張り詰めるシュールさ、ギャグや小道具の馬鹿馬鹿しさ、そして事件のトリックのツッコミどころ満載さ……。どれ一つとっても一見安っぽい。そしてどれ一つとってもギリギリである。もしどこか一つでも間違えると、ギリギリのバランスが崩れて、その全てを冷めた目でしか見られなくなる。しかし、そこを上手くまとめ上げてしまうのが『TRICK』。うーん、全くうまく説明できない。もう、これは見て理解してもらう以外にないのだ。

 まあ、何が言いたいかと言えば、とにかくこの『TRICK』はめちゃくちゃ面白いのである。事件の展開も、差しはさまれるギャグも、登場人物たちの掛け合いも、絶妙な味がある。どれか一つが突出しているとかではなく、それら全てが突出している。全く恐ろしい作品。それでいて、そんな難し気なことを考えさせない、一見したところの安っぽさ。だから誰でも楽しめる。まさしく、日本のドラマの頂点に立つ作品だ。

 この作品が成功した最大の要因は矢張り仲間由紀恵演じる売れないマジシャン・山田奈緒子阿部寛演じる物理学者・上田次郎の名コンビだろう。この二人の掛け合いは本当に面白い。お互いにお互いを馬鹿にしあって反発しあう二人、こうやって書くと一見真面目そうに見えるが、そんなことはない。二人がどんなに喧嘩をしても、見ている方は何も心配しない。また始まったか、という感じで笑いながらそれを見つめる。大体にして彼らの争いはもう小学生レベルのものばかりだから、真剣になる必要がないのだ。そう、つまりこのコンビはバディものとしての鉄則である互いに相容れいないところのある二人という要素を満たしながらも、視聴者にそれによる胃痛を感じさせないという特徴がある。考えて見てほしい。リーサルウェポンでリッグスとマータフが言い争いする場面を。ラッシュアワー3でリーとカーターがすれ違う場面を。SUPERNATURALでサムとディーンがいつもの兄弟喧嘩を始める場面を。どれも胃が痛い。でも、山田と上田はそうならない。この安心感。家で見るドラマとして最適なのだ。そしてこの二人は男女バディが陥りがちな恋愛ルートを華麗に避けている。これが非常に良い。バディはバディであって、カップルであってはならないのだ。それでいて男女バディだと、恋愛関係に発展しないの?という疑問も持ってしまうのが、我がままな人間の性。そして山田と上田はそれを行き過ぎない形で表現してくれる。理想の男女バディ!それにしても二人とも相手の性的コンプレックスをいじりすぎだとは思うが。今の時代やったら色々とコンプライアンスの問題がありそう。(と言うか上田は勝手に女性の家に上がり込むの相当危ない人だぞ)

 改めてSeason1を見ると、意外な場面が多い。お馴染みである遊園地でマジックをする山田のシーンは第一話の一回きりだし、町中で彼女が見ず知らずの人に笑われるシーンもない。そしてアパートの大家さんが、結構まともな人。家賃のこと以外で何も言ってこないし、別に悪い人じゃなかったんだなと。上田もまだ変な本出してないし、山田の実家の方には瀬田なんていうキャラが出てくる。この人、この後出てくるんだっけ……?あと下ネタの数がとんでもなく多い。まあ深夜ドラマだし。それにしても子供の時見てた自分はこれを少しでも理解できたんだろうか?一番驚いたのは爽快感が皆無であることだろうか。山田の決め言葉と言えば「お前らのやったことは(何かしらの形容詞)全部お見通しだ!」だが、お見通しになってもこのSeason1の事件はすっきりしない。と言うのも「インチキ霊能力による被害者」という面にスポットライトが強く当たっているからだ。事件が解決しても彼らを救うことは出来ないというもの悲しさ。それがここでは描かれる。それと最終回に繋げるために本物の霊能力者の存在を提示する必要があったのも大きいだろう。そのために、事件が終わってもまだ続きがあるような不安感に襲われるのだ。この辺りは、山田が好む時代劇などとは大きく違う点かも。

 演者について少し。山田を演じる仲間由紀恵はとにかく美しい。美人なのは勿論知っていたが、こんなにだったか?と見とれてしまった。もっとも、それをぶち壊すような演技をするわけだが。上田演じる阿部寛は矢張りかっこいい。しかし、こちらもそれをぶち壊す演技。二人ともこの作品が出世作らしい。そりゃあ売れるでしょう、って感じの名演であった。またヘボ刑事矢部謙三演じる生瀬勝久。この人、本当に演技が上手い。只今絶賛放送中の仮面ライダージオウにも出演していて、そこで彼の演技を久々に見て本当に感心してしまった。コメディリリーフとしてはもう出てくるだけで面白い雰囲気を出すほどの才能の持ち主、そして泣かせる場面でも視聴者の感情を揺さぶってくる。約二十年前のTRICKでもその演技力は既に完成されていて、もう矢部が出てくるだけで笑ってしまう。Season2で引退してしまった前原一輝演じる石原との掛け合いもグッド。劇場版などでは彼らの出番がいつも少ないのが残念であった。ゲスト陣は演技の上手い人とそうでない人の差がめちゃくちゃ激しい。一番上手いなと思ったのはミラクル三井演じた篠井英介。妖しい魔術師を怪演した。菅井きん佐伯日菜子あたりはちょっとうーん……となるところも多いが、そういう演技すら「安っぽさ」が売りのTRICKの中の一部として組み込んでしまう力強さがある。

 話はやはり蒔田・堤コンビの担当回が突出してしっかりしている気がした。いや、トリックなどはガバガバなのだが、何というか、地に足がついている感じ。他の話も面白いんだけどね。

 それにしても、昔はいちいち二話ずつしか入っていないDVDを五巻もTSUTAYAなどからレンタルしなければならなかったのが、今ではAmazon Primeでささっと見れてしまうのだから恐ろしい。良い時代になったもんだなあ。